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2月22日◇きょうは猫の日 書評カレンダー
 ----- 猫、人生への客人 -----

『黒ねこのおきゃくさま』

 ルース・エインズワース著  荒このみ訳
  山内ふじ江 絵 (福音館書店)
 


猫は、ほとんどの場合、人より先に死んでしまう。

猫は生命のサイクルが人より随分短いから、出会ったときから
別れは不可避なものであり、その意味で、全ての猫は人の前に
ある日姿を現し、やがては去っていく「客人」のような存在で
あると言える。

猫を愛するほど、当然ながら猫が去ったときの悲しみは深い。

ペットロス」による精神的なダメージから立ち直れず、
こんなにつらい思いをするのなら、二度と猫と共に暮らすのは
嫌だ」と言う人もいる。

しかし私には、それはあまりに淋しい考え方に思える。

人生のいっときを共に過ごした客人、そのかけがえのない
思い出まで、失われてしまっているように感じるからだ。

猫は逝ってしまう。でもそのことによって、猫と共に
暮らした幸福な日々までが喪われるわけではない。
物質としての猫の存在はこの世になくなっても、猫の記憶は
胸に残り、その丸く温かな体を懐に抱いているかのように、
心の内を温める、永遠に消えない「猫あんか」になる。
 

くろねこ    

                (photo bon-neko)

『黒ねこのおきゃくさま』はまさしくそういう物語だ。

20世紀前半のイギリスの児童文学者ルース・エインズワースの
作品で、もともと、「シェルオーバー」という名の亀が不思議な
物語を語って聞かせるという形式の物語集、『かめのシェル
オーバーのお話』で、最初に語られる物語である。
それを独立させ、絵本としたものだ。

雪の夜、餓えた黒猫が貧しい老人の家を訪れ、老人は、
自らも空腹なのに猫に食物を与え、一晩の温かな寝床を与える。
すると翌朝猫が……というようなストーリーである。
餓えた来訪者への食物の提供、姿を変えた来訪神、動物への
親切に対する報恩などといった伝承説話の型やモティーフ
備えてはいるが、随所に際立っているのは「猫と共に居る
ことの喜び」だ。常に人間のもとから去ってしまい、別れの
悲しみを必ずもたらすことを知っていながら、なぜ人は猫を
飼うのか、そのひとつの答えを描いているように思える。

特に猫を喪った悲しみに沈む方に、ぜひ最後のページを
読んで欲しいと思う。
 

そして何しろ、手練の“猫描き”山内ふじ江による
「黒ねこ」の絵が文句なし!(だってうちの黒猫に
そっくりだし♪)なのである。
 


●おまけでもう1冊のご紹介
  『ポテト・スープが大好きな猫』

(テリー・ファリッシュ著・村上春樹訳・
バリー・ルート絵/講談社文庫)
 

『黒ねこのおきゃくさま』同様、老人と猫の話で、どちらも、
べたべた優しくしすぎないおじいさんと雌猫の距離感がいい。
2005年に大判の絵本として出版されたのが、昨年12月に
文庫で登場している。

                      - 蔦谷香理 -

author:信愛書店 en=gawa, 23:29
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