- 2月22日◇きょうは猫の日 書評カレンダー
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-2009.02.21 Saturday----- 猫、人生への客人 -----
『黒ねこのおきゃくさま』
ルース・エインズワース著 荒このみ訳
山内ふじ江 絵 (福音館書店)猫は、ほとんどの場合、人より先に死んでしまう。
猫は生命のサイクルが人より随分短いから、
出会ったときから
別れは不可避なものであり、その意味で、全ての猫は人の前に
ある日姿を現し、やがては去っていく「客人」のような存在で
あると言える。猫を愛するほど、当然ながら猫が去ったときの悲しみは深い。
「
ペットロス」による精神的なダメージから立ち直れず、
「こんなにつらい思いをするのなら、 二度と猫と共に暮らすのは
嫌だ」と言う人もいる。しかし私には、それはあまりに淋しい考え方に思える。
人生のいっときを共に過ごした客人、
そのかけがえのない
思い出まで、失われてしまっているように感じるからだ。 猫は逝ってしまう。でもそのことによって、
猫と共に
暮らした幸福な日々までが喪われるわけではない。物質としての猫の存在はこの世になくなっても、 猫の記憶は
胸に残り、その丸く温かな体を懐に抱いているかのように、
心の内を温める、永遠に消えない「猫あんか」になる。
(photo bon-neko)
『黒ねこのおきゃくさま』はまさしくそういう物語だ。20世紀前半のイギリスの児童文学者ルース・
エインズワースの
作品で、もともと、「シェルオーバー」という名の亀が不思議な
物語を語って聞かせるという形式の物語集、『かめのシェル
オーバーのお話』で、最初に語られる物語である。
それを独立させ、絵本としたものだ。雪の夜、餓えた黒猫が貧しい老人の家を訪れ、老人は、
自らも空腹なのに猫に食物を与え、一晩の温かな寝床を与える。
すると翌朝猫が……というようなストーリーである。餓えた来訪者への食物の提供、姿を変えた来訪神、 動物への
親切に対する報恩などといった伝承説話の型やモティーフを
備えてはいるが、随所に際立っているのは「猫と共に居る
ことの喜び」だ。常に人間のもとから去ってしまい、別れの
悲しみを必ずもたらすことを知っていながら、なぜ人は猫を
飼うのか、そのひとつの答えを描いているように思える。 特に猫を喪った悲しみに沈む方に、
ぜひ最後のページを
読んで欲しいと思う。そして何しろ、手練の“猫描き”山内ふじ江による
「黒ねこ」の絵が文句なし!(だってうちの黒猫に
そっくりだし♪)なのである。 ●おまけでもう1冊のご紹介
『ポテト・スープが大好きな猫』(テリー・ファリッシュ著・村上春樹訳・
バリー・ルート絵/講談社文庫) 『黒ねこのおきゃくさま』同様、老人と猫の話で、どちらも、
べたべた優しくしすぎないおじいさんと雌猫の距離感がいい。 2005年に大判の絵本として出版されたのが、 昨年12月に
文庫で登場している。- 蔦谷香理 -